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モダン・タイムス

モダンタイムス(上) (講談社文庫) モダンタイムス(下) (講談社文庫)

ゴールデンスランバー」「魔王」と関わる作品と聞いて、読まないわけにはいかないと思っていた一方、重たい単行本だとどうも気後れしていて、ようやく発売された文庫版には無条件にとびついた。もちろん、両作品を知らないと理解できない、というものでもなく、単体でも充分読み込めた。


拷問で描かれる"痛み"が伝わってきつい。万が一実体験しているからといって、ここまで痛々しくは表現できないよなと思う。言葉だけだからこそ、想像をかきたてるのかもしれない。あとは、一番身近にいるはずの奥さんが信用できない、という不安も、緊張感を与えてくれる。


下巻のページ数が多いけれど、間違いなくそれだけではない大作で、娯楽作品を通しながら、この人が世に問いたい(とおそらく思っているだろう)ことがほとんどすべてちりばめられている(ように思えるくらいだった。)互いに関係のない3本の映画のタイトルが出てきて、それぞれの細かい内容描写が始まると「さあどうやって結びつけてくれるんだろう」と先へ先へと読み進めてしまう。いろんな伏線を過不足なくまとめてくれるランディングの仕方は、この人ならでは。


あらゆるWeb検索が監視されていて、特定のキーワードの"組み合わせ"で危機が訪れる、という仕組みはおもしろかった。たとえば「図書館」で検索する人は相当多いが、「図書館 バラ」はそれより少なく、「図書館 バラ 村山」で検索する人はもっと少ない。‥というフィルタリングの結果、アクセス履歴から事件の真相を知る者が特定される、というプロットだ。しかしこれは、日常でも検索を活用している身からすると、ひやっとするところもあった。ちょっともう気をつけようがないほど使ってしまっているけれど。