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マネーボール

「統計理論を駆使して弱小チームを強くしたゼネラルマネージャ(GM)の物語」というふれこみでPRされていて、たしかにそういうストーリーでもあるのだけれど、実際は、情熱と冷徹さをさらけ出して強いチームづくりに全力でぶつかり、娘を大切に思う、人間味あふれる主人公の物語だった。ブラッド・ピットさんの存在感がとてもいい。この人の代表作というか、この人でないと成り立たない作品だったのではと思うくらいだ。

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マネーボールとは編集


日本ではほとんどいない(2011年現在は巨人と日本ハムだけ)プロ野球チームのGMという仕事がクローズアップされる。自分より地位が上なのはチームのオーナーだけ。その場の電話で、トレードに必要な数千万ドルを出してもらう話をつける。経験豊かなスカウト陣との会議でも、最終的な判断は自分が出す。「自分のチームは俺が指揮を執る」と正しい姿勢を見せる監督と、選手起用の方針で堂々と議論する。トレード要員をまるでトランプのカードのように扱い、他チームのGMと電話交渉ですぱっとその選手の人生を決めてしまう。決められたほうは、相当きついに決まっている。‥およそあらゆる温情がじゃまをするだろうな、けれどチームのためと割り切ることで、やりがいを見つけていたのかもしれない。選手を含めたチーム関係者とはあえて仲良くはせず、一見マイナス側に見えるキャラクターを、大切に思う娘さんとのやりとりで、本音の優しさが出ていて、うまくプラス側に寄せるように描かれていた。


なぜこの人の存在感が印象に残るのかと考えると、演技もそうなのだろうけれど、特徴のある低い声からだろうと感じた。同じ「Yes.」の単語だけでも存在感がある。この作品の場合は、補佐役のジョナ・ヒルさんの抑え気味な話し方も、さらに引き立たせているように思った。「ツリー・オブ・ライフ」での腰回りを見て「ああブラッドピットもえらい太ったな」と思っていたら、この作品ではすっきりしていて、あれはプロの役作りだったのだとわかる。娘役の女の子がうたう歌もしばらく忘れられない。