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IT寄りの日常・IT以外の日常。ランニング。美術展や展示会感想。長文でもなるべく読みやすく構成する練習を兼ねています

「挑む力 〜 世界一を獲った富士通の流儀」

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

挑む力 世界一を獲った富士通の流儀

ぱっと見は「富士通の技術PR本」。読み方によってはたしかにその側面もゼロではないけれど、率直に言えば熱い内容で、「技術(ICT)は道具、使う人が主人公」「エンジニアならではの想いや苦心、達成感」「大きい会社だからこそ大きな仕事ができる」が堪能できる一冊。


  • 各章の始めのリード部分が役立った。「何に役立つ技術か」「なぜその技術が求められたのか」という背景と、登場する担当者の実名が写真入りで紹介される
  • 「」が多い(つまり担当者の言葉や会話がベースになっていて、単なる説明文の羅列ではない)構成もよかった

‥というポイントのおかげで、背景知識のない分野でも、約20ページ前後の短編小説のように入り込んで読めた。


一言でITといっても技術や製品はいろいろ。特にインフラ系を考えると、ハードウェア/ソフトウェアの両側面があって、現在華やかなクラウドやWebサービスで売上を得ている企業でも、この両者そのものを一手に扱っているところはあまりないのでは。結局、ハード/ソフトの両方を持っていて、日本全国+主要な海外に販路があり、責任もって語れるのは日本でも限られた数社だけで、そのうちの1社がここだろうと思う。(分野は違うけれど)メーカーの研究部門に勤めていて、今はソフトウェアベンダーに移った自分の立場からすると、「ああこれがメーカーの仕事だ、大きな仕事を責任もってやれる醍醐味がこれだ」と懐かしく思わせてくれ、メーカーを離れたことをちょっと後悔させてくれた。もし自分が就職活動中だったら、確実に大きな影響を与えてくれただろうなとも感じた。



章ごとの簡単な感想を(★は個人的に熱かった章):

  • 第1章:スーパーコンピューター「京」
    • 「2位じゃだめなんですか」で話題先行してしまったけれど、設計/製作していた現場の担当者たちが一番強く1位を目指していた、ということがわかる
    • 日立やNECが退いた今は文科省と一蓮托生、何に使われて、どんな成果につながったかが結局問われていくのだと思う。期待してます
  • 第2章:東証株式売買システム「アローヘッド」
    • 「注文受付レスポンス10ミリ秒」という数値目標に対して「2ミリ秒」を達成。先輩リーダーの会議でのふるまいに憧れ、自分がその立場になって自覚する、というエピソードがよかった
    • つい最近「1ミリ秒以下」に対応するプレスリリースがされていた
  • 第3章:すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡
    • ワイ島マウナケア山頂、国立天文台の望遠鏡のデータ解析システム。富士通が扱っていたとは知らなかった。「50回以上もハワイ訪問」には、末尾の寄稿文にあった泥臭さ down-to-earth をまさに感じる
    • アルマ望遠鏡も初めて知った。「望遠鏡設置に適した世界で究極の場所」で今年度中に運用開始予定とのこと。思わず @alma_japan をフォロー
  • 第4章:震災復興支援★
    • 冒頭に書いた「日本全国の販路」を感じたのがこの章だった。震災後の各企業支援には、正直、日本企業の底力を見た気がした。googlePerson FinderなどITの貢献も含まれる
    • しかしこの章に書かれたような「何が困っているのか」を地道にヒアリングして廻り、ICTを使って形にするという活動も、なかなか他社ではできないものだろうなと感じた
  • 第5章:らくらくホン
    • 高齢者向けに機能を考え、新LSI設計を含めた先進技術を搭載、かつ、如何に使ってもらう人にわかりやすく説明するか
    • この技術はもっと世界展開の可能性がある、と個人的には思っているけれど、まだあまり聞かないのは何でだろう
  • 第6章:農業クラウド★
    • 農作地の気候、作付け条件などをデータベース化して翌年の作付けに活かす。「ITでみかんをおいしくする」はいいキーワードで、「こんなこともやっているのか」と面白く読めた
    • 「ICTって何?」で分かれる世代間ギャップ、農家⇔試験場の業態間ギャップの話もある。「使ってもらうには、利点をわかりやすく見せないといけない。成果が見えづらいままでは使ってもらえない」というのは、今の仕事にもつながるポイントだった
  • 第7章:次世代電子カルテ
    • 既存の電子カルテが単なる紙の電子化にとどまって活用されておらず、何とかしましょうと、ヒアリングや仕様策定に現場へ足しげく通って実現できた話
    • 最後の忘年会での表彰エピソードは、(この呉医療センターに限らずだと思うけれど)一種の閉鎖性を読み取れ、それに怒ったお医者さん、という人間味も交えて一本の映画にできそう
  • 8章:ブラジル/手のひら静脈認証
    • 国内展開に悩む中、ブラジル現地大手銀行が興味を示し、実績をつくったことで、日本含む他国での展開へ契機が作れた、という話。「それまで見ていた日系人の勤勉さで、信頼しようと思えた」というエピソードがいい。お金をかけて育つものではないし
    • このブラジルという国、資源国であり、日本との結びつきが強く「遠い国に思えて、実は近い国」なのだけれど、やっぱりなぜか「サッカー、コーヒー、リオのカーニバル」というイメージが先行してしまう。やっぱり遠いよなあ


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