伊藤みろさん講演会「写真ごころとは何か」
『極意で学ぶ写真ごころ』刊行記念 伊藤みろ 講演会 〜 「写真ごごろ」を語るトークイベント
やっぱりまだ冬かと思える冷えた小雨の中、八重洲ブックセンターへおもむき、なかなか聴かないタイプの講演会を聴けた。「写真を哲学として語ります」の出だしにちょっとびっくりしたけれど、美術史の知識や哲学思想、弓道家の言葉がふんだんに絡まりながら、まさに「写真を撮るときの心がまえ、物事のとらえ方」が語られた。
合間に紹介される写真の存在感に引き込まれる。それぞれの写真につけられる、ポイントを押さえた説明では、講演ではやや堅かった口調も滑らかになった。ご自身で心を込めて撮った写真なので、使われる言葉も鮮明になるのだろう。最後の著者本人とのやりとりでは、慶應大学つながりを含めた旧来の知人の皆さんも多いようで、自分のような「初めまして」の参加者はやや少数派のようだったけれど、リラックスした表情も見せてもらったので、いい機会だった。
- 作者: 伊藤みろ
- 出版社/メーカー: フィルムアート社
- 発売日: 2011/11/25
- メディア: 単行本
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終了後に買ったこの本そのものも、自分にとってはかなり参考になる内容。たとえばこの紹介ページの下から2番目のような、初心者にもわかりやすい知識が「極意」としてたくさん紹介されている。「門下生」と「師範」の撮影例が並んでいるのもいい。門下生の作品が悪いわけではないけれど、やっぱり師範の作品は違う。なぜ違うのか?なぜこう撮れるのか?がすべて説明されている。講演で紹介された写真もほとんど掲載されていて「ああ、あのとき見た写真か」と思い出しながら読めるのでよい。
印象に残ったポイントメモ
講演内容そのものは、撮影初心者の自分にとっては、やむを得ず抽象的(例えるなら「有段者向けの講義」のよう)に感じることもあった。しかしまあ、絵画でも華道でもそうかもしれないけれど、「どんな道でも、技術を極めると、その裏を支える哲学や精神性を追求するようになる」のは、名が残る芸術家の作品を順番に見ると何となくわかる。現代でそれらをどう解釈するか、難しく考え込む必要はなく、人それぞれの感じ方で楽しむのがいいわけで、教養としてこういうとらえ方を知っておくのもいいなと感じた。
- 写真の本質は、弓道と近い (shoot) → 時空をとらえる
- 平たく言うと一つは「動きを意識して撮る」、四角いフレームにどう入れるか、とばかり考えていた今までの視点を新しくしてくれた
- 1/10000秒シャッター、無意識
- 成熟したデジカメスペック、1秒に1万回シャッターが切れる時代。「だからこそ逆に、どの瞬間を切り取るか、に人間の無意識が表層化するのでは」なるほど
- 逆あおり、ぼかし(香港の写真)
- セピアトーンなのに質感がすばらしい。遠近法、ぼかしの効果も大きい。アオリレンズというのも初めて知った
- 富岡製糸場の建築
- 行ったことはなく、明治時代の養蚕工業の象徴ということしか知らなかったが、モダンアートの集積とのこと。行かねば
- 島根の足立美術館
- これは名前さえ知らなかったが、日本庭園、構図(の勉強)の宝庫とのこと。行かねば
- 西洋芸術 vs 日本芸術
- 前者は遠近法がベースで(?)撮影は比較的かんたん。一方、日本はこのベースがなく、たとえば日本庭園は簡単に撮れそうでなかなか撮れない。構図力がいる