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頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ

おもしろかった。やっぱり、中盤の棋譜を追う展開が秀逸。現場観戦の熱気や、局面やモメンタムを評価する解説者の言葉、後日の清水さんへの振り返りインタビュー内容もそこに交わって、一気に読み進められる。将棋ルールを知らなくても入りこんでいけるような構成になっているのもよかった。


起こったこと、指した手、発した表情、と基本的に描写はほとんど過去形。しかしときおり挟まる現在形がうまいというか、文章を書き慣れた人の作品だなあと実感。(読むのは楽しいけど、書くとなると相当経験が必要そう、、)


読み終えて思ったのは、これまでの「悪手(良手)」という表現の意味合いがもう変わってきているんだなあという点。コンピュータ・ソフトウェア・並列クラスタによる最適解の探索、これらがかなり向上した現在でも、人間の"ひらめきや大局観"にはまだ届かない。でも広い可能性を探索できることで、「人間(=この場合はプロ将棋界)が"悪手"と思って避けてきた手も、決して悪い手ではない」「可能性のある手を排除してきてしまったのではないか」と人間側(この場合は清水さん)が気づけるということにもつながっている。


あの世界の人々の先読み力は、もう究極の"主観"といっていいと思うけれど、総当たり探索の"客観"が対等に対抗できるようになってきたとも言えそう。この点で、今は時代のけっこうな変わり目なのかもしれない。

頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ (新潮文庫)

頭脳対決! 棋士vs.コンピュータ (新潮文庫)