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調律師、至高の音をつくる

調律師=崇高な精神で心清らかに、というこれまでの自分の勝手なイメージを覆し、現場(=コンサートやライブ会場)で時にはとっさの対応をして、ピアノやピアニストと熱く関わる人間臭い職人、と思わせてくれた作品。


外見は同じグランドピアノでも1台1台音色が違う。保存状態、特に湿度によって調律の具合は変わり、逆によく保存されていれば、振動には強く、遠くまで運んでもほとんど狂わない。高級なピアノであればあるほど、崇められるかのように、あまり触れずに弾かれない、というのはよくありそうと思ったが、実際は逆で、どんどん弾かないとダメになると。勝手のわかった自前のスタインウェイを準備して、全国のコンサート会場に運ぶというスタイルが、多くの演奏家の信頼を得て今に至るという。


後半は、業界にまつわる人々の話。調律師の見分け方、関わり方からわかるよいピアニストの見分け方など。特に地方で見られる調律師周りの権威主義的扱われ方や、バブル時代のホール乱立で、手入れの行き届かないホールやピアノが残ってしまっている現状などを憂える文章が続き、強い思い入れがあるのだなと感じた。

調律師、至高の音をつくる 知られざるピアノの世界 (朝日新書)

調律師、至高の音をつくる 知られざるピアノの世界 (朝日新書)