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iPS細胞の話+わかりやすいか楽しいか

近所+無料で行ける、と気軽に申し込んでいた講演を聴きに行った。内容よりは、あの山中先生の実際の語りを聴いたことが無く、それもありそうでない機会だな、という興味からだった。予想していた熱い感じではなく、穏やかで丁寧な話し方だった。(これは、誰が聴いているのか、によるところもあったと思う)

  • これまで知っているようで知らなかった「iPS細胞の何が画期的なのか」に加えて、
  • わかりやすさと楽しさを表現するポイント

が、それ以外の講演者の語り方から見つかったのも収穫だった。


文部科学省iPS細胞等研究ネットワーク第4回合同シンポジウム「再生医学研究の最前線」

展示会などでよく来るパシフィコ横浜、会議センター側には入ったことが無かった。2年前のAPECもこの中で開催されたのかと思いつつ、1000人収容というメインホールの外側廊下にもゆったりとした空間が準備され、なかなか過ごしやすい。以前にサントリーホールに行ったときと同じ感覚だ。客席以外の空間の使い方には、けっこうホールごとの性格が出ているなと感じる。


「山中教授らの発見をきっかけとして、彼のアイデアを充分に参考にしつつ、彼以外のアプローチでも、さまざまな難病治療へ取り組んでいる」人たちの、コンパクトな熱い語りを聴けた。まさに最前線。文部科学省が国家レベルのサポートをアピールしているのも印象的だった。ゲノム創薬、テーラーメイド医療で欧米にがっさりと遅れをとった分、この再生医療分野ではどんどん先行するために気合いかけてます、という感じだ。Webサイトも公的機関のものにしては見やすく、予算規模を感じる。文科省官僚さんの「厚生労働省経済産業省とも”シームレスな”連携を‥」という言葉には「ほんまに大丈夫かよ」とも思ったけれど、やっぱり夢のある話、皆さんがんばってほしい。


健康でいると、このiPS細胞という単語には夢や未来というイメージが紐付き、何か輝いているようにも見える。しかし、効果的な対処法が見つからない難病にいま苦しんでいる人は、この技術をまさに薬としてとらえる。Q&Aコーナーでも「いつから治療に使えるのか」の質問があった。「技術的にはすぐそこまで来ているが、臨床開発、許認可まで考慮すると5〜10年」という回答が多かった。それだけまだ新生な技術ということで、何とも急ぎようがない。山中教授の丁寧な語り口は、これを充分配慮したスタンスからだろうと、終わったあとに思った。いろいろ考える機会になった。


講演内容メモ

横軸x:「楽しそうに話しているかどうか」
縦軸y:「わかりやすく伝えようとしているか」
と考えて勝手にマトリクスに貼ってみた。自分のこれまでの話し方ではy重視だったけれど、「ひたすらyが大きくても"楽しさ"が伝わりづらいことがある、実際はxも大事」という点が収穫。

y [1,3]    
  [2]  
    [4]
O x
  • [1]「iPS細胞研究の進展」 山中 伸弥 京都大学 iPS細胞研究所 所長
    • わかりやすさ重視。シャーレ=「プラスチックの皿」、試算=「こころみの計算」などあえて言い換える丁寧さ。「HLA型」「HLAホモドナーの大切さ」を、初めて聴く相手に理解させる。これはかなり難しいはずだけれど、わかりやすかった。いろんなレベルの人に説明慣れている感じだった
  • [2]「心筋細胞直接誘導による新しい心臓再生法の開発」 家田 真樹 慶應義塾大学 医学部臨床分子循環器病学講座・循環器内科 特任講師
    • わかりやすさもあり、研究にかけている熱意、モチベーションも伝わってきた。心筋細胞=赤、繊維芽細胞=青、と徹底的に区別した説明が助かった
  • [3]「iPS細胞を用いたパーキンソン病治療」 高橋 淳 京都大学 再生医科学研究所/iPS細胞研究所 准教授
    • パーキンソン病になる仕組み」は完全には解明されていないはずだけれど、現状での合理的な説明がなされていたように思う。楽しさ‥はこの内容の性質上は難しいか
  • [4]「iPS細胞技術と直接誘導法を用いた神経系の再生・疾患研究」 岡野 栄之 慶應義塾大学 医学部生理学教室 教授
    • 洋画吹き替えが似合いそうなほどいい声で、高度な内容が朗々と語られる。後半は、ロジックはわかりやすいので何の不満もないものの、エンジン回転しすぎて、専門用語連発でややついていけなかった。しかし"楽しさ"が現れているのはこの人が一番。自分の興味を話しだすと、ついこうなってしまう気持ちは何となくわかる