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万年筆とデパ地下マジック

大学院の卒業記念にもらってほぼそのままだった万年筆。ほぼ数年に一度の割合でちらっと使ってみるものの、ペン先の目詰まりからか、ろくに書けないままだった。最近、特に何か理由があったわけでもないけれど、どこかで修理してもらえるかな、と百貨店の文房具屋をさがすことにした。結局最初に見つけた、高島屋に入っている伊東屋で20分程度超音波洗浄してもらうと、さらさらとした書き味が復活した。まあ、大したことはない話なのだけれど、10年以上の時間が取り戻せたように感じて嬉しかった。それと同時に、デパ地下マジック、無償サービスというものの価値、などをわりと短い時間でいろいろ感じた日だった。

万年筆 Sailor F-4


「書き味が復活した」といっても、その書き味を覚えているわけではなく、ああ、この万年筆はこんなさらさらと書けるのかと "初めて感じた" というほうが近い。帰りの電車で思わずレシートの裏側にさらさらしてしまうくらいだ。いままで型番も知らないままだったが、見てもらったついでに聞いた「Sailor F-4」の文字が、ペン先に小さく書かれていた。メーカーのページにはすでになく、検索するとハイエースという、\1000程度で手に入れられる定番品のようだ(すでに廃番。)見た感じは誰がどう見てもたしかに廉価版なのだけれど、個人にとっては言葉にできない思い入れがある。\5000も出せばそれなりの万年筆は買えるけれど、あえてそれをしないままでいた理由でもある。


洗浄を待っている間、エスカレーターでB1、B2にたどりつく。閉店間際なのもあって途中の階はお客もまばら、店員の数が目立つばかりだったが、デパ地下は違った。特にB1、弁当、惣菜の割引コールが延々と続く中、老若男女がおいしそうな顔で物色している。気づかないうちに自分もそうなっていて、買うつもりもなかった神戸コロッケをいくつか買っていた。別にだまされたという感じでもなく、買い物している集団にまぎれ → 「買い物しに来た」という集団心理に入り → 「何を買おうか」と財布を開く、という一連のマジックを経験したように思えた。


洗浄後の万年筆をその場で紙にさらさらと試し、「戻りましたね、どうぞ」と返却され、無償でやってもらえたことを知る。おそらく\500くらいのサービスではあるけれど、ちょっと感激したし、自然と「またもし何かあったらここで見てもらおう」「新しく買いたくなったらここに来よう」と思わせてくれる。明らかにこの瞬間が "対価" になっていて、仕事の一つであるソフトウェアのセミナーもこれに近いと思った。無償参加で受け付けることがけっこう多く、以前は「有償ではないこと」に思うところもあったが、まず触ってもらう → 使用機会の拡大、受講者による社内評判の拡充などに、確実につながる。無償だからといって手は抜けず、きちんとマンツーマンで対応することが高評価や信用 reputation につながる。こう思うようになってからは、無償でも斜に構えることなく、気合いを入れて取り組めるようになった。