2013/07/06 プーシキン美術館展(横浜美術館)
プーシキン美術館展 フランス絵画300年
7/6土〜9/16月祝(木曜休館)10〜18時、8月9月の金曜は20時まで、入館は閉館の30分前まで
横浜美術館での開催初日の夜、運良く夜間特別観覧会に当選したので参加した。
- 一般閉館後、限られた人数(100名弱)の中で観覧できる、
- 学芸員レクチャーや無料貸出音声ガイドあり、
- 本来写真撮影NGですがこの観覧会では一部を除いてOKです、
といずれも初経験ばかり、おそらくかなり恵まれた条件で美術展を堪能できた。"美術系ブロガー"ではなくそちら方面の専門的言及はまったくできないものの、感じたところを写真交えて以下の通りまとめておこうと思う。
※ 以下、館内の写真はすべて、今回の観覧会における特別に許可を得て撮影したものです。(この記事を読むのに必要な時間は…まあ5分くらいあれば充分かと)
開催初日は関東梅雨明けの日
【関東甲信が梅雨明け 平年より15日早く】6日は南から高気圧が張り出して太平洋側を中心に青空が広がり、気象庁は「関東甲信が梅雨明けしたとみられる」と発表しました。関東甲信の梅雨明けは、平年より15日早くなっています。(11:58) http://nhk.jp/N48K6eLm
- たしかによく晴れていた。入口前広場の花壇も色とりどり
- 日露(または露日)
- 正面入口右手の「レクチャーホール」へ。受付からエアコンがよく効いていたのが印象的
- わりと近所に、約半年前まで3年半住んでいたけれど、結局ここの大型展覧会に来たことは一度も無かった。離れて初めてこの場所に立ったという、個人的には不思議な縁
レクチャー
- 「あらゆる準備がほぼ終わり、作品をロシア→日本へ運ぶ手だてが直前に控えていた2011年3月、東日本大震災が発生し、やむなく開催"中止"に。2年少しを経て、ファンの熱望も後支えとなり、当初と同じ3会場(名古屋、横浜、神戸)で開催が決まった。中止ではなくあくまで"延期"とできた結果が、とてもよかった」
- …というストーリーが、レクチャー開始時に学芸員さんから語られた。この話を聴いた後は、外に掲げられた二国の国旗も少し違って見えた
- レクチャーはもちろん聴けてよかった
- 見どころの1つに「長い間ロシア人があこがれ、」という箇所がある
- 高校世界史の知識では、そういえばロシアとフランスは(英仏や独仏ほどには)喧嘩してなかったなあと思い出した。だからこそ芸術品が奪われたりせず大事にされ、今回のタイトルである(17〜20世紀の)300年の歴史を培うまでになったのだろうな
- ちなみに…
- 実際"露仏"で検索すると"露仏同盟"がまずでてくる。ありそうな"露仏戦争"で検索すると、そのものの歴史用語は無く、代わりに1812年ロシア戦役がヒットする
- ナポレオン1世が遠征しモスクワ占拠、けれど結局大負けして退却、という栄枯盛衰を象徴する出来事
- いまだに、芸術や宗教を理解しようとするときは、"脇の知識"として高校世界史の内容が役立つことが多い。とっててよかった
- レクチャー時も撮影OKだったのでカメラ構える人々もかなり多め
- 最後尾の座席+単焦点レンズ、というきわどい条件だったけれど、HDR入れて何とか"読める"写真になった
エリア塗り分け
- 撮った写真をiPhoneにまとめて気がついたけれど、全4章、エリアごとの色塗り分けがわかりやすかった。まあこれは他の展覧会でもよくある方法なのかもしれない
- 「なぜこの色にしたんですか?」はぜひ質問したかった点
- 第1章:赤
- 第2章:青
- おそらく「ドミニク・アングル『聖杯の前の聖母』」のための青
- 第3章:白
- 第4章:白
- 4章だけ写真撮影NG。色は3章と同じだった
第1章(17-18c:古典主義・ロココ)
- フランソワ・ブーシェ「ユピテルとカリスト」
- 通路の広さは気になっていた点の1つ
- どこもだいたいこんな感じで、まあ余裕もって観られた。ただ人数が増えると印象は変わるかも?
- ゆったり観られるかどうかは、展覧会の満足度にかなり影響すると思うし、通路幅と天井の高さもその大きな要因に思える
第2章(19c前半:新古典主義、ロマン主義、自然主義)
- ドミニク・アングル「聖杯の前の聖母」
- ジャン・フランソワ・ミレー「薪を集める女たち」
- この陰影の付け方。。光源がないのに、あるように描く。当然まねできない
- いくつかの作品に付された「くらべて楽しむ」
- おそらく子ども向けの説明だけれど、わかりやすいポイントを提示してくれていて、かなり助かった
- 「どう解釈すればいいか?」を押し付けられる感じはまったくない。ただ、「この作品をどう観ていいかさえわからない」という(僕のような)大人向けでもあり
第3章(19c後半:印象主義、ポスト印象主義)
- クロード・モネ「陽だまりのライラック」
- 目の前で観られる作品には凹凸がある
- 絵の具の乗りだったり、紙のこすれ具合だったり、額の不揃いな縁取りだったり
- 資料や画面で見る"高精細な"作品画像にもこれはない。当然のことだけれど、この凹凸で、作品から受ける印象はまったく異なる
- CDアルバムの曲か、ライブハウスで聴く生演奏か、の違いに近い。スーパーオーディオCDにも生演奏の空気は込められない
- 「お金を払って美術展に何を観に行きますか?」と聞かれたら、僕は間違いなくこの凹凸を答えるだろうなと思う
- ルノアール『ジャンヌ・サマリーの肖像』
- ルイジ・ロワール『夜明けのパリ』
- 一番印象的だった作品、は僕の中ではこれだった(もちろん他もすばらしかったですが)
- 全体的に暗めの色合い、さらっと通過してしまいそうだけれど、よく見ると、地面の水たまり、急ぐ人の足元、建物に浮かび上がる明かり、一日の淀んだ天気を予想させる雲など
- これは絶対に写真でも出せないなあ、映像でも無理だなあ、絵画でしか出せない味わいだなあ、と思える仕上がり
- …語彙があまりないけれど、要はびっくりするくらい美しいなと感じた一枚
第4章(20c:フォーヴィスム、キュビスム、エコール・ド・パリ)
- 撮影NG(画像や解説はここで見られます)
- さすがに収集度合いに気の抜けは見られず
- 気になったのはパブロ・ピカソ「マジョルカ島の女」
- 青の時代からの‥という言葉を聴いて、ああ確かにこの水色を映えるようには、壁の色は白が必要だったのかな、と思えた
音声ガイド
- これもあってよかった
- 抜粋された24作品(作品横にヘッドホンアイコンがついている)に対して1分程度の作品解説
- 混雑している中だと、この1分さえ少し長いと感じるかもしれない。周囲の人々の動きを気にせず聴きこめる人向け
- 案内ページにある「ナビゲーター」という単語からは、水谷豊さんの語りはごく一部か、と予想していたけれどそうではなく、全体の5-6割くらいが水谷豊さん
- ラスト24番の末尾、本人扮するあの人が(おそらく紅茶飲みながら)ボーナストラック的に登場
- 抜粋された24作品(作品横にヘッドホンアイコンがついている)に対して1分程度の作品解説
- せっかくなので気になった点を
- 長すぎるデバイス。約30cm弱の「白い棒」にヘッドホンが接続された形。バッテリーや再生機器のフットプリントが影響しているのかもしれないけれど、このご時世、さすがにもっと小型化できないのだろうか
- 作品のそばだけで音声をWi-FiやBlueTooth送信するアプリを\500で配信とか。音声は近くでないと聴けません、でいいような。展覧会変わってもアプリは同じでOK、だとユーザーの裾野は広がりそう(こうなるとわりと大きい話)
グッズ売り場
- にこにこしてしまう品揃え
- 「マトリーショカ」と思っていたら「マトリョーシカ」だった(すいません)
- 「○シミュレーション ×シュミレーション」的な間違い
- チェブラーシカはロシアだったのか
- Think BEE!タイアップのハンドバッグ
- 全然詳しくないけどこれはナイスコンビネーション、展覧会の雰囲気に合っている
- 複製画にも値が付くのは何となく知っていたけれど。これは5万円台だった
- 価格よりも、説明してくれていた技法に興味津々
- 10色インクジェット+微粒子3タイプ(大中小)=そうかそうか30パターンでプログラマブルに絵を描けるのですか
- 「撮影時に生じた光の乱反射や暗部の失われた色彩等を…繰り返し見比べ補正することで…」
- これを人間でなくコンピュータがやっていたとしたらとても興味深い(どうやっているのだろう?)
予習/復習教材
- 順路の後半、映像が流れる広めの場所に、フランス美術史の年表、コレクター6名の略歴がある
- 公式サイトにも載っていて、もちろん図録や公式ガイドブックにもきっと載っているだろう。ただ、その場でさっと勉強したい場合はこの掲示が役に立つ
- 関係ないけど美術館向かいに新しくできた「MARK ISみなとみらい」
- 上部の網目模様は5F「みんなの庭」の屋根。正式には「こもれびルーフ」というらしい
- 昼間は家族連れで和気あいあいだったけれど、こうやって夜に見るとまるで別空間かつ異質なアート
配布資料
- 小冊子のデザインに惚れ惚れ
- 見開きでA4を一回り大きくしたサイズでコンパクト(写真上部はほぼA4サイズのPCケース)
- 作品写真のページ、その合間合間に綴じ込まれた、サイズ違い(幅が半分)の黒いページがよかった
- 各作品の作家だけではなく、それらのコレクターに着目しましょう、という構成になっている
- この黒いページは1ページごとに綴じ込まれていて、このコストたるや中々では。さすがプレス向けだからか、気合いの入ったデザイン
- もらった資料。主催・朝日新聞社の号外(風のPR資料)や、周辺レストラン・カフェ・ホテルとのタイアップ商品の紹介
- こういうのは主催者側が営業するのか、周辺施設が売り込むのかはよくわからないけど、相当なボリューム
- 横浜という街の特性もあるのだろうけれど、単なる美術展に終わらせない"巻き込み感"が半端ではない
- 映画アベンジャーズのコピーを借りれば「日本よ、これが日本の美術展におけるタイアップだ」と聞こえてきた(ように思えた)まあでも、あまり嫌な感じはしない
もっとも印象的だったアングル
- この位置から眺める「ドミニク・アングル『聖杯の前の聖母』」の前では自然と経つ時間を忘れた
- 一通り巡回した後にもこうやって観に戻る人が絶えず、第2章の濃青色もこの作品に合わせてだったか、とも思えるくらいの主役ぶりだった
この1枚を撮影した場所は通路角で、やや広い空間になっていました。混雑具合にもよるけれど、余裕があれば離れて眺めてみるのもおすすめです