always one step forward

体育会的な山中千尋さんの演奏 (JAZZ JAPAN AWARD 2011 LIVE)

山中千尋さんの生演奏を、近所で無料で聴けるとなれば、行かないわけにはいかない。雑誌「JAZZ JAPAN」が主催する、昨年話題になったアーティストを表彰するという第1回の企画で、日産グローバル本社ギャラリーでライブが行われた。あまり音響を考えた空間ではなさそうだったけれど、充分に広いので、気持ちよく音楽浸りの2時間を過ごした。以下敬称略で。

SOIL&"PIMP"SESSIONS:アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュー・ジャズ部門)

 東京スカパラダイスオーケストラやPE'Zの方向へ、もっと極端に突き進んだ感じのユニット。ステージ上を動き回るトランペットとサックスに、ピアノとパーカッションがにぎやかに混ざる。もう1人、拡声器を持ってお客さんを盛り上げるだけの役のような人がいて、途中から、こないだ観たアメトーークの「ガヤ芸人」の回を思い出してしまい、気味悪いけれどにやにやが抑えられなかった。(帰宅してサイトを見たらこの人は「アジテーター」らしく、そのままやな、と思った)けれど、こういう立ち回りの人がいて、インタビューやMCを任せられるので、プレーヤーは演奏に集中できるのかもしれない。演奏は素人でもわかるくらい一流で、特にトランペットとサックス、後半になっても全然衰えない音量や音の芯の強さ、どんだけ体力持ってるのかという感じだった。日本でも海外でも人気があるらしい。

井上銘:アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュー・スター部門)

 ひょうひょうとしたギタリスト。「天才ジャズ・ギタリスト」とふれこんだデビューから数ヶ月でこんな賞をもらうのだから、相当タレントがあるのだろう。「受賞のお気持ちは?」「今年の夢は?」というやや機械的なインタビューに、自分の言葉で誠実に応えていたのが印象的。

奥田弦:アルバム・オブ・ザ・イヤー(ニュー・スター部門)

 ピアノソロで5曲。わりと頻繁に手が鍵盤から上に離れ、指を振り下ろすのだけれど、やっぱり子供の力なのか、その動きから予想するよりは音が軽やかだった。曲間に、椅子に座りながら上半身だけ丁寧にねじって、お客さんのほうにお辞儀するのがかわいい。えらく子供だなと思ったらインタビューで10才と知り、「銀河系一のピアニストになりたい」と平然と言うあたり、ああたしかにこの子の時代にはそうなるかもと思わせてくれるくらい。天才ぶりは検索するといろいろ。



山中千尋:アルバム・オブ・ザ・イヤー(ジャズ部門)

 この日の目的。トリオで2曲。一言で言えばすごいのだけれど、アルバムだけを聴いていた自分としては、ちょっと印象が変わった。ノースリーブでの登場、けっこう寒いのになあと思いながら、穏やかすぎる声の挨拶を聞く。演奏が始まると、体育会的というか、別人格が乗り移ったというか、鍵盤に向かって前傾姿勢で、芸術品の演奏だった。袖さえ邪魔という理由にも納得。変なたとえだけど、落ち着いたモネやドガの絵を観に行って、ピカソの作品を目の当たりにしたという感じだ。終わった後の声はさすがに疲れていたものの、インタビューで「今年の目標は」と聞かれたときの「刺繍を始めたので、3cmくらいできるようにしたい」という回答にも、裏切ってくれるユーモア的なものを感じてしまった。