2014/03/23 小塚フォントの小塚さんの話
この3月、あのチョムスキー氏来日が成り、講演の動画が先日公開された。
ノーム・チョムスキー教授講演会 - 上智大学 国際言語情報研究所
彼本人の論にそれほど詳しいわけではなく、特に傾倒しているわけでもない。けれど「かなり以前から(自分の小さい頃や学生時代から)書籍や教科書でその名前を見る人が、健在で、現役で、いま自らの考えを語る」という出来事に、同時代に触れると、敬意、そして少し敬虔な気持ちさえおぼえる。最近だとチョムスキー氏、そしてこの日曜日は小塚昌彦さんだった。人間が紡ぎ出す言語、言語を表現する文字、と不思議にリンクを持つお2人
3/23(日)18時〜 『ぼくのつくった書体の話 - 活字と写植、そして小塚書体のデザイン』刊行記念 小塚昌彦×鈴木功×西塚涼子 タイプデザイナー・トーク「ぼくたちのつくった書体の話」青山ブックセンター
ぼくのつくった書体の話 活字と写植、そして小塚書体のデザイン
- 作者: 小塚昌彦
- 出版社/メーカー: グラフィック社
- 発売日: 2013/12/06
- メディア: 単行本
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‥わざわざこんな枕を入れたのは、偶然にも、ご年齢がともに85歳であるのをさっき知ったからだった。たとえば65歳からさらに20年、人生を歩んでおられることになる。仮に評価のされ方は様々であったとしても、こんなすばらしいことはない。落ち着いた語り口で発せられる深みのある内容、という点でとても共通していたように思う。
仕事で/自宅で使っているフォント
講演とは無関係ながら、一種の"儀礼"として公開
印象に残った言葉メモ
有料イベントであり、詳細に書くのははばかられる。さすがプレゼン資料も美しく、思わず写真に残したくなる内容ばかりだった(いや撮ってません)以下、おそらく書籍にも書かれているであろう、手元のメモから印象的だった言葉をまとめておきます(見出しは僕が適当につけたもので、イベント構成とは無関係です)
新聞の明朝体(毎日新聞社時代)
- 明朝体それぞれに性格がある。すべて同じではない
- 一面の題字「毎日新聞」の背に敷かれる横ストライプ線をそれまでより細くした。「どれくらい細くすると、どれくらい印象が変わるか?」を実にいろいろ実験した
- 当時は「政治面と文化面でちがう明朝体つかってもいいのでは?」と提案したこともあった。コスト面で実現せず
小塚明朝/ゴシック開発(Adobe時代)
書体開発という仕事
- Adobeに日本でオリジナル書体開発のチーム発足
- PDFフォーマットを扱う関係で、どうしても独自書体を開発したかったという経緯があった
- 書体開発=グループワークが難しい仕事。まず仕組みづくりからだった
- Adobe時代、最初は28名、いま約300名
字の構成を洗い直し
- 漢字の構成を知らなければならない
- 「六書」を基準として漢字をパーツに分類
- 六書? http://togetter.com/li/480645 がWikipediaよりも意外とわかりやすい
- 5cm角くらいの紙に一字書き、たくさんあるポケットに小分けする‥地道な作業
- 2年で6万字(!)
エレメント
- ゼロベースから字の成り立ちを洗い直し。"てん"や"はらい" パーツに分ける
- 一つの字のあるパーツ1を動かすと、別のパーツ2がバランスよく有機的に変わる仕組みを構築
- 新聞社時代から"てん"や"はらい"の角度・太さを細かく調整・開発していた経験を活かす
- この仕組みによって、人手なら例えば半年かかるレイアウトを、すぐ仕上げてしまう。システムもすごいし、小塚さんの力もすごい(by西塚さん)
- 小塚明朝開発が終わり、小塚ゴシック開発へ移ったが、ゴシック体も明朝体も「骨格」は同じものを使用
後半は、小塚さんの愛弟子ともいえる(そして今はフォントデザインの一線で活躍する)お2人の開発作品紹介。さすが美しい。縦書き(縦組み)・横書き(横組み)の妙がわかりやすく示されたり、漢字/かなの大きさ比率を微妙に変えて印象ががらりと変わったり、このパートもけっこうおもしろかった。
ちどりフォント - 西塚涼子さん
- 「かわいい」とは?何が自分にとってかわいいか
- 丸みではなく、クラシカル、やや崩れた、などに感じた経験を凝縮
- 横長字体を横組みするか、縦組みするか、で印象変わる
- 参考:ちどりフォント(仮) - いわもとぶろぐ 昨年3月の記事。文中の「開発秘話」PDFファイルでかなりフォントのイメージが掴める
- 参考:アドビ システムズ、開発中の「ちどりフォント(仮)」を公開 2013/03/11
- 昨年03/11の記事。今回は開発が進み、アプリや絵本に使われています、という紹介がされていた
TP明朝 - 鈴木功さん
- 横組みのための明朝体
- 字粒を揃える
- 拡大縮小にたえる書体
- 参考:Type Project プロジェクト どれも見ていて楽しいプロジェクト
- 参考:新書体「TP明朝」の発売を開始 2014/02/03
そして最後に小塚さん、縦組み/横組み、ひらがなフォントについての意見。卓見であり、フォント開発に何十年も携わった人でさえ、歴史にたずね、基本に立ち返るという姿勢が見られて、なんというか「敬服いたしました」という言葉が似合う締めだった。
- 明朝体は漢字のため。ひらがなは別書体
- ひらがな=運筆から縦組みが適している。"め" や "あ" は縦書きの時代だから
- ひらがなの標準はどこにもない
- 表音文字
- "ろ"は"呂"、"る"は"留"がもと。最初の横棒も本来は異なる
- 書籍の感想をTwitterなどで見ている。「一気に読了した」が著者にとっては一番の褒め言葉。字体を意識させなかった証拠
本日、青山ブックセンターの小塚昌彦さん、鈴木功さん、西塚涼子さんのトークにお越しくださった皆様、ありがとうございました。お三方そろって小塚書体開発当時のお話をしていただくのは、私も初めてだったので、とても興味深かったです。拙い進行でしたが、皆様にお楽しみいただけていれば幸いです。
— YUKI Akari / 雪 朱里 (@yukiakari) March 23, 2014
一書体の漢字、少なくとも7000字あまりを作りきるのはしんどいけれど、二十年以上もこの仕事をつづけていると、もはや張り合いと呼んで差し支えない日常の一部と化している。だから無理はしない。しないほうが良い。書体のためにも。
— isao suzuki (@isao_suzuki) March 25, 2014
トークイベントの後の記念撮影。楽しい時間を過ごせました!来てくださったみなさま、ありがとうございました! http://t.co/OJWDnDrxN8
— Ryoko Nishizuka (@ryon106) March 23, 2014