JTF翻訳祭2012
Webサイトでボランティア募集の案内を見たのがきっかけで、内容もおもしろそうだったので第22回JTF翻訳祭に、写真撮影ボランティアとして参加した。といってもずっと付きっきりでカメラを構えるでもなく、撮影以外の時間は自由に講演など聴いてください、とのことだったのでいろいろ聴けてよかった。
開催の目的はサイトにもあるように:
翻訳者・翻訳会社・翻訳発注企業のためのJTF翻訳祭【主催:翻訳業界団体の日本翻訳連盟】
とあり、実際、あらゆる産業翻訳にかかわる人々が集まっていた感じだ。翻訳を依頼するクライアント(メーカーやソフトウェアベンダー、特許事務所や商社など多岐にわたる)、翻訳を請け負う翻訳会社、フリーランスの翻訳者、翻訳者を養成して人材紹介のハブとなる翻訳学校、などいろいろ。やっぱり翻訳を仕事にしている人(自分のように、趣味の範疇ではない人)がほとんどだろう。
自分はといえば、翻訳を仕事にしているわけではないけれど、翻訳作業そのものはおもしろくて、フリーソフトウェアのGUI文字列やマニュアルの日本語化に関わったこともある。今やOSからスマホアプリまで、どのソフトウェア1つをとっても翻訳やローカライズは切り離せない付加価値。グローバル化云々とはいえ、「メニューが英語だけなのか、日本語もあるのか」「日本語マニュアルがあるのか」「Web上に日本語の参考情報が多いか」というあたりで、ソフトウェアの使い勝手が決まる現状は、今後もそうだろうなと感じる。その点では翻訳へのニーズの灯が消えることはそうそうなさそう。
聴いた中でおもしろかった講演メモ
サービスそのものより、インドという国そのものの現在、という情報がおもしろかった
- インド人のマインド
- 重視するのは「家族>宗教>国>会社」
- 「家族のために稼ぐ、仕事する」がほとんど。会社のために‥はほとんどいない
- 「はい」≒「わかりました」という程度の意味であることが多い
- YES の意味ではないことがある(NO と言いたくない性格)
- 年上はとにかく尊敬する
- 重視するのは「家族>宗教>国>会社」
- ローカライズへのニーズ
- インド、ITビジネス現場としての問題点
東芝+CAテクノロジー、機械翻訳をシステムに組み入れた実績あり、翻訳対象はソフトウェアリソースやドキュメント。100名近く入る部屋がほぼ満室で立ち見もあり、と盛況だった。「機械翻訳=翻訳精度には?がつくけれど、やっぱり便利そうなので最新状況を知っておきたい」という人が多いのだろう。
機械翻訳 MT 導入後、スループットは15-20%向上(手動翻訳+翻訳メモリ TM の場合とくらべて)
- 後者が二槽式の洗濯機とすれば、前者は(一槽式の)全自動洗濯機というイメージ
東芝の機械翻訳システムはルールベース(≠統計ベース)
- ルールベース:人間がルールをたくさん入れる
- 変な翻訳が出てくると、直したくなる(新しいルールを追加したくなる)
- 自分の経験を入れられる、育てがいがある
- ただしルールのメンテナンスはどうしても必要
- 統計ベース:単なる置き換え(文章の意味は、基本的には考えない)
- 両者のメリットを組んだシステムも開発中(だがまだ実用までは至らず)
- ルールベース:人間がルールをたくさん入れる
MT に向かない原文がある
- 同じ意味で異なる単語を使用している
- 1文が長すぎる
- 関係代名詞使いまくり など
「日本語→韓国語」でも機械翻訳を導入中(統計ベース)
- 日本語と文法が似ている
- 「英→韓」「日→韓」の翻訳精度は後者が断然よいとのこと by 韓国語ネイティブ
これまでは翻訳だけをしていた翻訳会社が、今後は MT のポストエディットを行うケースも増えるだろう
翻訳のコスト vs MT ポストエディットのコスト
- (ファジー文字列をのぞく)新規文字列だけの分であれば、印象としては後者は前者の約半分
Q「特許明細の翻訳を PAT-Transer で行っている。この分野では TM、MT とも導入進んでいない。MT 導入がこの分野に進むと、作業としてはポストエディットが増えそう。しかし労力はそれほど変わらず、ポストエディターとしてのメリット(効率アップ)は見込めなさそうだが」
A「難しい問題。ポストエディターという呼称がそもそもどうだろう、MAT machine-aided translation と呼ぶべき」
MT導入の目的は、ハッスルの軽減にあると思う
- "ハッスル(hassle)とは、顧客のお金と時間を無駄にする欠点のことである。"
- http://www.ogitax.com/index.php?QBlog-20121012-1
- http://tpegblog.blogspot.jp/2012/08/blog-post.html
- しかし MT 導入で別のハッスルが生まれる。それは何だろう?というのが今考えていること
写真何枚か
(お顔が入るとかなり公開には躊躇する。今回はやむなく、会場の雰囲気が伝わるものを選んで顔部分にレタッチ処理を入れた)