always one step forward

毎日メディアカフェ「STAP細胞事件を取材して」記者報告会

IMG_20150226_222210

昨年1月、あの鮮烈な記者会見から→12月の検証実験停止まで。

あの事件を網羅した振り返りが、現場の科学系新聞記者によって語られる、という点に興味を持ったので参加した(記者報告会とあるけれど参加は誰でも可能)

  • 昨年1月の記者会見、その4日目に報道各社に届いたFAX。それを起点とした、時系列で的確な事実整理
  • 事態の転換点になると「この時印象的だったのは‥」と自身の感想もスムーズに挟み、真実味が増した内容
  • 笹井氏や若山氏への取材に加え、各論文誌に投稿された過去論文の査読コメントを入手して、問題の根幹を追跡する取材力

これらがあり、最後まで飽きない講演だった。

新たな万能細胞として昨年1月に華々しく登場したSTAP細胞が、既存の万能細胞であるES細胞(胚性幹細胞)であったことが明らかになりました。

日本でも有数の研究機関、理化学研究所を舞台に起きた研究不正事件は、社会の大きな関心を集め、日本の科学界を揺るがしました。

元々存在しなかった幻の細胞が、なぜ一流科学誌で論文発表されるに至ったのでしょうか。また、疑義発覚後の主要著者や理化学研究所の対応は適切だったでしょうか。

1月に「捏造の科学者 STAP細胞事件」(文芸春秋)を出版した須田桃子記者が、これらの問いを追究した取材の経緯をお伝えします。

"致命的"

実験結果の報告や論文不正に関する節目の出来事に対しては、「致命的」という単語が何回も出た。「信じていたのに‥虚偽だったのか」という裏切られた感覚がにじみ出ていた気がした。

誰に/何にとってcriticalか、は状況や立場によってそれぞれ。この場合、日本の科学技術への信頼、科学ジャーナリズムへの信頼が損なわれる事態にとってcriticalだったのだろう。

当初の"人類の希望"を一面トップで報道し、結果的にはそれが間違いだった。そこに科学ジャーナリズムに関わる一員として責任を感じた、と須田さんは話していた。

「致命的」な事実が続いたこの事件に向き合い、批判や批難だけでなく「何が真実で何が疑義か」を明らかにすることに、執念にも近い責任感を感じた。

私見

Nature掲載

  • 講演を聴きながら、やっぱりNature掲載が一つのきっかけだったかなと感じた
  • 政治的意図(文科省による新法人認定)、iPS細胞研究所への対抗等々、なんらかの意図で広報や事実公開が行われていたのだろう。しかし結局、あの"一流誌"に掲載されていなければ、耳目の集め方も大きく変わったに違いない
  • まあ、逆に大きく注目されたから、不正が早く露見した、という点は"メリット"だったとも言えそう

特許戦略?

  • 昨年5-7月あたり、徐々に疑義発覚が進む当時、情報を小出しにしているように感じた。それは特許対策ではとしばらく推測していた
  • 「次の論文で報告します」などという言葉に、その推測を裏付けていた気がする。いわゆる性善説
  • 結果的には、事態が明らかになるにつれてその前向きな推測も裏切られた形である
  • 弁理士の栗原さんによれば、米国では手続きが止まっていないようである。なぜなのかは興味深い

損失

  • そして、いずれにしても、STAP細胞が世の中に存在する時代が来るなら、その発見は日本からであってほしいし、その日本国内でもっとも近い位置にいるのが、おそらく今も理研CDBであることに変わりはない
  • その意味で、笹井さんがいなくなってしまったのは、明らかに科学技術分野における損失であり、残念というか悲しいというか、なんとも言えない気持ちになる

書籍

捏造の科学者 STAP細胞事件

捏造の科学者 STAP細胞事件

捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春e-book)

捏造の科学者 STAP細胞事件 (文春e-book)

会場で紙版の書籍が売られていた。その場で購入し、いま読み始めている:

  • 時系列の事実整理。もちろん講演より詳細。やっぱり新聞記者の文章はわかりやすい
  • 編集/脚色もある程度あるのだろうけれど、この事件の場合「事実は小説よりも奇なり」を地で行くので、事実の列記だけでインパクトがある
  • 笹井氏や若山氏にメールや電話や取材の連続。本人たちのメール文面が多く引用され、臨場感がある
  • そんなメールやりとりもありながら、重要なタイミングでは「電話で捕まるかどうか」 - ごく最近の取材事情がよくわかるルポルタージュでもある気がする

IMG_20150226_222653

テクニカルな面では、日経サイエンスの取材のほうがより詳細。バックナンバーが今も買えるし、関連記事だけを購入できるWebページもあった(いずれもまだ読んでいない)

日経サイエンス「まとめて読む『STAP細胞』」 (WEB限定 PDF販売 税込1,800円)

日経サイエンス2014年12月号

日経サイエンス2014年12月号