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2012.12.15 「カメラの話をしよう vol.10 - 失敗したカメラ、成功したカメラ」

会のタイトルに惹かれた。いわゆる失敗学という視点、「なぜ/どんな基準で"失敗作"と考えているのかな」が聴けるかと思って参加した。大手メーカー、現役トップを含む経営層の皆さんが揃い、カメラやレンズ、製品開発の成功/失敗にまつわる、わりとコアな話を聴けた。雰囲気自体は、発表順をその場でじゃんけんで決めるくらいのフランクさ。これだけの面子が定期的に揃ってしまう、湯浅さんという方の人徳もあるのだろうな。

カメラの話をしよう vol.10

もちろん悪口という感じではないけれど、トークのところどころに「設計(部門)が…」「開発陣が首を縦に振らない…」というフレーズが出てくる。同じ社内であっても、事業企画+営業 vs 設計+研究開発のせめぎ合いはどのメーカーも同じだなあというのが率直な感想。

前者は顧客要望を、後者はコア技術に責任を持って社内でぶつかり合う。最終的には「売上+利益も得られ、技術が市場に認められた」がベストなのだけれども。もうメーカーでの開発現場は離れてしまったけれど、いま改めて考えると、そういういい意味での対立がある状態は、部門全体としてみればけっこう"熱い"状態で、いいものが生まれる土壌になっていたなとおもう。(感情論、人格否定まで行ってしまうとダメだけれど)

最後の質問コーナーもなかなか濃い時間で、ぽかーんとしながら聴く内容もあり、聴衆側の知識も相当なもんだなと。自分が持っているPENTAX Qは話題に出なかったけど、他メーカーからの印象/意見が聴きたい、とは思っていたので、質問できたらもっとよかった。あのタイプの小型ミラーレスは未だにわりと特異で、他メーカーから現時点ではまだリリースされていない。

クローズドな会ということで、全部書くとまずいかもしれず(特に製品名)、以下はところどころぼかして書きます:

リコー湯浅さん

  • 成功/失敗の2つの軸。1s-2sがもちろん一番よいが‥
    1. 業績的な成功/失敗(売れた1s/売れなかった1f)
    2. 会社として狙い通りの製品が作れた2s/f作れなかった2f
  • 初期のデジタルカメラはだいたい1f-2f
    • そもそも狙いが何なのか?(銀塩カメラの次?PCの周辺機器?という迷走)
  • GR は1s-2s:作りたいものが作れたし、売れた。会心作
  • GXRは1f-2s:我々としてはうまく作れたのだけれど、思っていたほど伸びなかった

ニコン後藤さん

  • 「大量に売れた」「技術はともかく…(売れなかった)」「上市したけど早すぎた…」「遅すぎた…」「実は隠れヒット商品」などと分類され、実際の製品名と合わせたエピソードがたくさん語られた
    • one reason per one productというか、そうなった本質の理由を一言で言い切られていた。さすが
  • 「フィルムカメラに手振れ補正搭載」「WiFi/GPS/顔認識などをデジカメに初搭載」など、機能のパッケージングという面で、業界でもイノベーター的な立ち位置
  • 開発投資が多額になっても、"出さない勇気" が時として必要
  • 操作系がいかにもまずかったモデルA → 改善された次期モデルA'が売れたケースも
  • 成功か失敗か?=そもそも、市場に出して初めてわかるケースも(逆に言うと、出さないとわからない)
    • この2点からは、ユーザーの声を吸い上げて次の開発に活かす、という行為がとても大事だなと感じた

タムロン千代田さん

  • 知る人ぞ知る、高品質、プロ仕様のレンズ専業メーカー
    • 知る人ぞ‥は僕の勝手な認識だけれど、(キヤノンオリンパスのような)カメラボディのメーカーほどには知られていない気がする。CP+でのブースは毎年盛大でびっくり
  • 感動の価格、をコンセプトに、ある新製品が企画され→設計され→店頭に並ぶまでのエピソード。これもおもしろかった
  • レンズのAF駆動部分を担うモーター。超音波モーター、ピエゾモーターという言葉も出てきて、まったく知らない世界。次期製品もがんばって開発していますとのことだった

このあたりから湯浅さんの「市場に出すまでの社内ステップ、ジャッジポイントは、会社ごとに違うのだろうか?」という発言が何度か。

  • 日本の場合、海外では気にされることの少ない「レンズのサイズ」がキーになることが多い
  • 設計者が言う「〜できない」は条件付きであることが多い。「このコストではできない」「この開発期間ではできない」など
  • 設計期間をどれくらいかけるかは判断が難しい。かけすぎると、世間のニーズが変わってしまうこともある

SIGMA山木さん

  • DP1/DP2 Merrillのメーカーでもあるけれど、望遠レンズ、マクロレンズもたくさんラインアップ。Wikipediaに詳しい(しかしこれを書いている人、複数いるのだろうけれど、詳しすぎる。。)
  • 現社長は創業者の息子さんで、世界中を飛び回る日常のようだ。その方がこの日は目の前で「昔の製品持ってきました」と、テレコンバーターやフィルターなど、今ではほとんど見られないレア製品の紹介。聴衆側のテーブルにも回され、実際に触らせてくれた
  • 正直、個人的には、コンバーターと言われてもどんな用途に使うのかさえピンと来ないレベル。しかしオリンパスの小川社長が「これはおもしろいなあ、、」と見入っていたのを見ると、相当なレア製品なのだろう
  • 「先を読みすぎて売れなかった」がケースとしては多いようだった。今発売すればおもしろいのでは、という言葉もいくつかあった

オリンパス小川さん

  • プライスポイントの話。$399におさまるか?これが1つの基準。上には$499があるが市場は1/4〜1/5になる
  • あるレンズの発売前、当初$399を狙っていたがコストがどうしてもおさまらない。$499ではむずかしいのではと。しかし議論の末$499で出したらヒットした(その市場をおさえることができた)
  • E-30、アートフィルターに思い入れがあったけれど思ったより全然売れなかった
    • リーマンショックの波に加え、「PENがリリースされる」の噂が立っていた時期。噂が他製品の売上に影響してしまう例
  • 女性の視点を重視。感性で撮る女性。いくつかの一眼レフは女性カメラマンをペルソナにして開発
  • PEN用単焦点レンズ、リリースの背中を押してくれたのは宮﨑あおいさんの言葉

質問コーナーで出た話題

  • デザインは5要素の1つ。とても重視している
  • グッドデザイン賞の選考についてもの申す、大賞と金賞の違い?
  • 工業デザインは「機能設計」と並列。建築や服飾と異なり、製品全般に関わる点が大きく異なる
  • 「ミラーレス+EVF」vs「光学ファインダー」の使い分け、、今後もなくならないのでは
    • マイクロフォーサーズ規格の今後にもよるが、レンズやファインダー、各部の設計寸法についてこれ以上小さくできない閾値がやっぱりある
  • 「カメラの大きさ」が被写体(の人)に与える影響もけっこう無視できない。ある料理人を撮影するときにわかった(がっしりした or コンパクトな一眼レフを構えたときの表情の違い)