2015/10/28 東京メトロ「異常時総合想定訓練」へ参加した
東京メトロ「お客様モニター」内容の一部として、年次で行われているらしいこの訓練に"一般乗客"役で参加できる機会があった。
事故・災害等の発生時における関係社員の初動対応、お客様の救出救護及び避難誘導における迅速・適切な対応、鉄道施設復旧処置等を主眼とした異常時総合想定訓練を2015年10月28日(水)に実施いたします。
実際、「総合」と名のつく通り、地震発生、それに端を発した火災発生、車内/外に負傷者発生、車いす乗客への対応、などいろいろなケースが状況として組み込まれていた。
という点から、かなり大掛かりな訓練であることがわかった。この訓練のための準備コストも相当なものだろうなと想像できた。
今回の訓練では、「首都直下型地震により緊急停止した列車が脱線」の想定の下、事故発生時における負傷者の応急救護、避難誘導時における関係部門の対応、復旧処置のための点検作業、損傷したレール交換等を実施することにより社員の異常時対応能力の向上を図ります。
今年度の訓練会場である王子車両基地は地下車庫となるため、実際のトンネル内の環境(狭隘、暗所)に近い環境での訓練であるため、実践的な訓練となります。
"実際には起きていないこと"への準備
訓練が始まる前は -具体的にいうと車両に乗り込む前は-「起きていないことに対して、起きたこととして対応する」という不思議な感覚はあった。
実際にこのような事象はもちろん、起こらない方がよい。けれど、だからといって発生を想定しないわけにはいかない。たとえば訓練中に実際の地震が来る可能性もある。そうなると、訓練とわかっていても、状況や手順に慣れておくことはどんな職場/現場でも必要で、それなりの予算と準備期間をかけてでもやる意義があるのだろう。
訓練が始まってからは、実際にその時、この車両に乗っているつもりで参加した。
以下は写真と合わせて(あまり細かい内容は書いていません):
会場
王子車両基地。といっても主な設備は地下にある
関係者でなければ、何の建物なのか地上からはほぼわからない。近所にある公園のおだやかさが逆に印象に残るくらい
車両へ
自分と同じように参加する"一般乗客"役の人々。子供はいなかったが、性別も世代もバランスよかった。実際の乗客分布をある程度想定しているのだろう
地上で集合後、担当職員によって地下へ案内され、車両基地中の線路に停められた実際の車両に乗り込む。車内広告を含め、乗り慣れた車両そのままである
1車両は私たち"一般乗客"、その奥の車両には東京メトロ社員(他の職員もいたかも)が乗り込む。けっこうな人数だった。彼らも乗客役のようだ
プロ仕様のカメラをかついだ映像撮影スタッフが乗り込む。訓練中はずっと、主だった訓練内容を記録していた。それはそれでイレギュラーな風景ではあるけれど、記録して残すための訓練であるとも言えそうだ
そして、車両の座席に(普段そうしているように)座りながら、担当者から、今回の訓練の流れや、「◯時◯分頃に車両からの避難を始めます」のような心準備も説明された。
担当者は2名、モニター参加者にずっとついて、訓練中を含めて適宜説明を入れるという方式。訓練とはいえ「非常時」なわけで、参加者の不安をやわらげようという配慮がうかがえた
訓練開始
地震発生→乗っていた車両が緊急停止→一部脱線
アナウンスが入る。
車外の赤ランプを何気なく眺める。普段は気にかけさえしないけれど、緊急時はこういう指示ランプも気になったりするのだろうか
想定:地震発生→乗っていた車両が緊急停止→一部脱線
以下「」は想定した内容
想定「車いす乗客を優先して避難」
想定「最寄駅から駅員が車内に駆けつけた」
想定「乗客避難のため避難はしごを設置」
想定「避難はしご設置完了」
運転再開見込みなし→車両を降りて線路上を最寄駅へ歩いて避難
想定「線路内を歩き、最寄駅へ避難」
想定「線路内を歩き、最寄駅へ避難」
足元を照らす蛍光黄色の棒?等間隔に置かれていた
地下鉄線路を真上から眺める貴重な機会
想定「点検車?で線路異常がないか点検」
参加後に感じたこと
並べた写真を今見返すと、あっという間の出来事にも見える。
実際は、けっこう長い時間に感じた。訓練開始から何となく時間を計っていたけれど、やっぱりこれくらいはかかるものなのだろうな、と感じる程度の時間。
一方で、非常時であり、かつ、いろいろな状況が重なったのにこの時間で済んだ、とも受け取れる。絶対的な目標時間はきっとあったはずだけれど、どの程度の達成率だったかは不明
「現状はどうなっているのか」「次の行動をどう取ればいいのか」の車内アナウンスがもっとほしいとは思った。落ち着いて状況を思い出すと、車掌自身も何らかの救助・連絡作業にあたっているわけで、それは高望みなのかもしれない
実際にその時、この車両に乗っているつもりで参加した。
と冒頭に書いた。実際の車両に乗っていたこともあってか、ああだこうだと参加者に望ませるほどには、実際の状況を想定できていた訓練だったと思う
グリーンライト点灯中のように)何も起こらない日常が一番ではあるけれど、何しろ非常時は抜き打ちでやってくる。このような非常時の想定訓練があるから、非常が日常になった時にパニックにならず対応できるのだろう。ともかく、貴重な経験だった
また、たくさんの対応人員、マニュアルに基づく連絡系統、何に対してコストをかけているのかがよくわかった。単純に電車を利用しているだけでは、なかなか気付かない点だ
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安全ポケットガイド
東京メトロのどの駅にも置いてある。
これまでしっかり開くことはなかったけれど、訓練参加後は書いてある内容がまざまざと現実的に映る
レール交換作業
避難後は、損傷したレールの交換を想定した「レール交換作業」を目前で見学できた。
10名前後が分担し、一組、10数mの長さにわたるレールを人手で交換する。これはこれでレアな見学体験
(何枚か撮った写真、右端の「>」クリックで次の写真を見られます)
人手か、機械か
交換作業そのものに加えて、交換後の導通?チェックにかなり時間をかけていた。継ぎ目がずれていてはいけない、など素人目にもわかる。
(区間内全体の線路長に比べれば)ごく一部の長さの線路。その交換に10数名がそれなりの時間(こちらもだいたい計っていた)をかける。それらはすべて、経験を積んだ担当者だからできる作業なのだろう
一方で、見ながら、交換/検査作業用のロボットは開発しているのだろうかとぼんやり感じていた。
こんな報告も最近公開されていた。「人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業」には「〜工」と名の付く仕事がけっこう挙げられている。
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など、すくなくとも2015年現在では、書籍やメディアの文脈はほぼすべて「人の仕事を奪う」である。きっとその方が売れるからだろう。
しかし、本来は人間と機械の「協働」「協力」「相互補完」のはずである。すべてNRIの報告の通りにはならないと思うけれど、一方で、レール交換や検査を全部行えるロボットが開発され、人間は人手でしかできない仕事にもっとシフトしていく、という時代が来るとよいなと感じた